※本記事は筆者がうつ病を経験した際の体験談をもとに執筆したものです。医療・就労に関する判断は、必ず主治医や専門機関に相談してください。この記事は特定の選択を推奨するものではなく、筆者の記録を共有する目的で書かれています。
第1章:出社前|不安と覚悟が入り混じる朝
出社前の私は、ギリギリまで迷っていました。
先週、3日も休んでしまったことがずっと引っかかっていて、
「今日こそ行かないと…」という焦りと、「でもやっぱり無理かも…」という不安が交互に押し寄せていました。
「行っても、また気まずいんじゃないかな」
「でも別に、誰かに何か言われたわけじゃないし……それに、ここでまた休んだら本当に行けなくなる気がする」
心の中で、まるで子どもと親のような自分同士が言い争っていました。
行きたくない理由を並べて抵抗する子どもと、
「それでも行った方がいい」と正論で返す親のような自分が、ぐるぐると言い合っているような感覚でした。
「今日は休みだから、車で送ってあげようか?」
そう言ってくれたのは妻でした。
その一言に、張りつめていた何かが少しだけ緩みました。
「……うん、じゃあ行ってみようかな」
本音では「行きたくない」が勝っていたけれど、
それでも最後は、「行った方が、あとで自分を責めずに済むかもしれない」と思って、会社に向かうことを選びました。
第2章:出社してみて感じたこと|“行けたこと”と“しんどさ”の両立
会社に着いた私は、出社時間まで少し余裕があったので、外の喫煙所へ向かいました。
「まずはタバコでも吸って落ち着こう」──そんな気持ちだったのですが、
1本、2本と吸っても、頭の中に渦巻いているモヤモヤは晴れませんでした。
家での葛藤を、そのまま引きずってきたような感覚。
それでも時間は進んでいき、私は出社することにしました。
会社に入ると、同僚も上司も、まるで何事もなかったかのように接してくれました。
「おはようございます」
「お疲れさまです」
いつもの挨拶、いつもの空気。
そのやりとりの中で、さっきまでの不安や葛藤が、少しだけ馬鹿らしく思えてきました。
「こんなに考えてたの、自分だけだったのかもしれないな」
そんなふうに思いながら、いつもの業務に取りかかりました。
仕事がひと段落した頃、上司に声をかけられました。
休んでいた理由は、入社当初から伝えていた病状のこともあり、
「体調、大丈夫?」と穏やかに状況を確認してくれたのです。
私は、これまでの経緯と、明日主治医に相談する予定があることを伝えました。
特別なやりとりではなかったけれど、それだけで少しだけ気が軽くなった気がしました。
その後の業務中、私は何度も揺れていました。
「仕事に戻れてるのに、なんでまだ心が重いんだろう」
「この場にいても大丈夫なのかな」
そんな思いを抱えながらも、同僚や上司が話す他愛ない雑談にふっと笑って、
ほんの少しだけ持ち直して──また沈んで、を繰り返していました。
それでも、仕事の手は止めなかった。
止めなかったことだけが、今日の“自分なりのがんばり”だったと思っています。
第3章:帰宅後、妻との会話|“選ぶ”ことの重みと向き合って
帰り道、妻が車で迎えに来てくれました。
会社の近くまで来てもらい、運転は私が引き継ぎました。
ただ無言で帰るのもなんだか落ち着かなくて、自然と、車内で今後のことを話し始めました。
「やっぱり、無理しすぎるのはよくないよ。
いっそ会社を辞めて、もう一度就労移行支援からやり直すっていうのはどうかな?」
──妻はそう提案してくれました。
その優しさも、心配してくれている気持ちも、ちゃんと伝わってきました。
でも私は、すぐに「うん」とは言えませんでした。
「うーん…たぶん、それはないかな」
私はそう答えました。
以前、就労移行支援を利用していたことがあります。
朝決まった時間に起きて、決まった場所に通う。
生活リズムを整えたり、就職に向けた準備をするという内容でした。
でも――
「正直、今の会社に1年以上勤めて、
突発的に休むことはあっても、その“基本”はもう自分なりにやってきたと思ってるんだよね」
そう口にしながら、これまでの自分を少しだけ肯定できた気がしました。
今の自分にとって現実的だと思える選択肢は、3つあります。
・今の会社に勤め続けながら、自分に合った新しい働き方の可能性を探っていくこと
・今の会社を辞めて、A型事業所などを利用しながら、自分らしく続けられる仕事の形を探っていくこと
・6月から始まる予定の集団認知行動療法によって、今の職場での過ごし方を少しでも楽にできるようにすること
「どれも簡単じゃないけど、ちゃんと主治医と相談して決めたい」
「もう、失敗はしたくないから……」
そう言ったとき、妻は静かにうなずいてくれました。
すぐに答えが出なくても、一緒に考えてくれる人がいることが、何よりの救いでした。
最終章:まだ決まっていない。でも、少しずつ前に進んでいる
「辞めるか、続けるか」
その答えは、まだ出ていません。
今日、会社に行けたこと。
その一歩は、決して“もう大丈夫”という証明ではないけれど、
自分なりに動けたという事実だけは、確かに残りました。
迷いは、まだ続いています。
でも今の私は、ひとりではありません。
主治医と話し、妻と話し、自分の働き方を見つめ直そうとしています。
「正解」は、きっと誰にもわかりません。
ただ、今できる選択を、できるタイミングで、
少しずつ積み重ねていくしかないのだと思います。
そして、もし今、同じように
働き方や生き方に悩んでいる人がいたら、こう伝えたいです。
「悩んでいるあなたは、ちゃんと前に進んでいる」って。
自分の気持ちを無視せず、立ち止まり、考えている――
それだけでもう、自分にとっての“歩み”なんだと思います。
この記録が、誰かの心にそっと寄り添えたら嬉しいです。
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